オオナゾコナゾ

種子島ぴー/九州出身、東京在住。夫と二人暮らしです。旅行のこと、フィギュアスケートのこと、香港のことを中心に、右から左へ流せなかった大小の謎やアレコレを、毒も吐きながらつづります。

食べることは闘いだ! 香港ひと昔話(4) カモカモ日本人

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香港人に言わせると、香港人の特徴は「古惑(ぐうわっ)」。ずるい、人をだまそうとする、という意味なんだそう。「香港人比較古惑D。小心啦!」(香港人は人をだますから、 気をつけた方がいいよ)と、香港人に言われてもなぁ、、、。


私の友人に古惑な人はいなかったが、商売がからむと、やはり「古惑」であった。

 

こちらが外国人だとわかると、すぐにだましにかかるほどだ。なにが嫌って、「だましのテクニックの手が込んでいないこと」。「これが日本だったら、絶対に許されないぞ」というバレバレの手を使ってだまそうとするのだ。「日本人はだまされたとわかっても、文句を言わんだろう」と思ってるってことだ。

 

 香港で最初にだまされたのは、佐敦(ジョーダン)の茶餐廳(庶民的な軽食喫茶店)。初めての香港で 右も左も分からない私は、地元民でにぎわう一軒の店に入った。地元の人が多いということはそれなりにおいしい、と判断してのことだった。

 

誰がどう見ても日本人顔の私が店に入っていくと、店主は日本語で書かれたメニューをひっつかみ、テーブルに置いた。 しかし、広東語の習得を目的に香港に来た私は、 テーブルに置いてあった中国語のメニューの読解に、 これつとめた。

 

メニューには写真も載っており、私はエビのいっぱい盛られた星州米粉(シンガポール風ビーフン)を注文。店主を練習相手にひとことふたこと会話練習などしたかったのだが、おやじは私など相手にしている暇はないとばかりに、そそくさと奥に引っ込んで行った。

 

待つこと30分。遅い。遅すぎる。「もう帰ろうかな」と思った頃合いを見計らって運ばれてきた星州米粉は、実に質素なたたずまいであった。

 

「なんか違うな」。とりあえず口に運ぶと、火の通っていない芯のあるビーフンと粉っぽいカレー粉の味が、口中に広がった。

 

「げろまずっ。"食の都香港"の名が泣くぞ」と思いながらもう一度メニューを見ると、大発見! 写真と違って目の前の皿には、海老の姿がどこにもないのである。ただのビーフン。それも炒める時間さえもケチったビーフンに、混ぜる時間を省略したカレー粉がかかっている代物だ。

 

「ちょっと、あんた、これどういうこと? 日本人をなめてるわけ?」と怒鳴って店を出ることができれば、かなり幸せだったと思う。 しかし小心者の私は、ほとんど手をつけずに料理を残すことで、ささやかな抗議の意志を表明することにした。

 

 

レジに向かおうと勘定書に手を伸ばすと、なんか変。

 

嫌な予感がしてメニューを見直すと、またまた大発見!! 中国語メニューの星州米粉は32香港ドル。日本語メニューの星州米粉は36香港ドル。

 

そりゃ、 私は中国語はわかりませんでしたよ。でも数字は万国共通じゃありませんか?それに、私は中国語メニューを見て注文したはずだ。

 

私はしばし悩んだ。 「言うべきか言わないべきか、それが問題だ」。日本人として馬鹿にされたまま帰国していいのか。

 

いやいやそうは言っても、 文句を言ったとたん、店の奥から黒社会(香港のや〇ざさん)の用心棒が現れて、中国包丁で切りつけられる、なんてことはないのか。

 

何しろ当時の香港映画といえば、必ずと言っていいほど舞台は黒社会で、主役はチンピラ。「香港のイメージ=黒社会」みたいな感じがあったのである。

 

店の奥を見ると、店主と厨師(コック)が顔を突き合わせ、 何やらニヤニヤしゃべっている。それを見た瞬間、怒りがこみ上げてきて、私は中国語メニューと日本語メニューの両方をつかんでレジに歩いて行くと、「埋單!!(お勘定)」と叫んでいた。


小走りにやってきた店主に「個價銭同埋呢個價銭鮎解唔同呀?(こっちの値段とこっちの値段、どうして違うの?)」と詰め寄ると、予想外に店主は動揺し、勘定書を手から落とした。

 

そして、「あれ、おかしいな~」みたいなことを小声でつぶやいて鉛筆で36香港ドルに×印をして、32香港ドルと書き直した。心臓をバクバクさせながらお釣りを受け取って店を出た私は、追手に斬り殺されるんじゃないかと恐怖に怯え、一目散に走り去ったのであった。

 

香港人の友人によると、日本人価格を設定しているレストランは、今でも特に九龍サイドにちょくちょくあるらしい。日本人と連れ立ってレストランに行き、いっしょに日本語メニューを渡された香港人の友人が、「同じ料理なのに、なんで日本語メニューのほうが値段が高いのか」と聞くと、レストランのオーナーはこう答えたそうだ、「日本語のメニューは、 同じ料理でも皿がデカいんですよ」。

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二重価格とは違うが、日本人に高い料理ばかり勧めるレストランの話は、枚挙に暇がない。

 

以前、大好きなスープ専門チェーン店があり、ランチセットがとてもお得だった。御替わり自由な本日のスープと白飯、選べるおかず一品にデザートも付いて、600円くらいだったと思う。

 

ところが、九龍サイドの店舗に行くと、日本人というだけで終日注文できる高い料理のメニューを持ってくる。これだと一品だけで、1500円とか2000円とかするのだ。

 

「Lunch menu,唔該(ランチメニューください)」と言っても、無言で高い料理のメニューを指さす。

 

「有没Lunch menu呀?(ランチメニューないの?)」と聞いても、無言で高い料理のメニューを指さす。

 

「而家唔係Lunch time咩?(今、ランチタイムじゃないわけ?)」と聞いても、無言で高い料理のメニューを指さす。

 

時には平然と、「没呀(そんなメニューないわ)」と答えたりする。周りの香港人は、みんなランチセット食べてますけどね。平然とそういうことをするのは、たいてい店のマネージャー風の女だ。

 

やがて、たくましくなった私は、「没呀(ないわ)」とクビを横に振られても、自分で店の中を歩き回り、ランチメニューを見つけ出すようになった。そうまでする私もすごいが、そうまでしてメニューを見せない店側もすごい。

*ひと昔前の愛すべき香港滞在記をまとめたものです。現在とは変わっている点があることをご了承ください。