オオナゾコナゾ

種子島ぴー/九州出身、東京在住。夫と二人暮らしです。旅行のこと、フィギュアスケートのこと、香港のことを中心に、右から左へ流せなかった大小の謎やアレコレを、毒も吐きながらつづります。

浅田真央の復帰を願うゲスな気持ちを静めるべく、2008年3月30日のジャパンタイムズ記事を訳してみた。

 浅田真央が好きだ。「真央ちゃん」などという感覚ではない。この10年、その信念に敬服し、背中を押され、勇気をもらってきたのである。

 しかし、フィギュアスケートは政治的なスポーツだ。「GOE(Grade of Execution=出来栄え点)」などというご都合主義の採点システムによって、

選手たちの点数や順位がコントロールされていることは、疑いようがない。

世界選手権が終われば、「浅田真央の来シーズンは?」「平昌オリンピックを目指すのか?」と、間違いなくマスコミが騒ぎ出すだろう。 

けれど、マスコミやフィギュアスケート連盟のこれまでの仕打ちを思うと、「倒れても倒れても立ちあがる真央というドラマによって、客寄せしようとしているのではないか」「金メダルをあおって、結局は獲らせないのではないか」と、疑心暗鬼になってしまう。

そして、「浅田真央に復帰してほしいなら、国際フィギュアスケート連盟は、平昌オリンピックでの金メダルを保障するべきだ」などど、ゲスなことを考えてしまうのである。

はぁ~。邪念を抱かずに彼女の演技を見ていられた時代がなつかしい。

ということで、2008年3月30日のweb版ジャパンタイムズ誌の記事「Mao a shining example of why sports still matter」を、写経のつもりで訳してみた。

 

 

www.japantimes.co.jp

 *翻訳には意訳も含まれています。

 「なぜスポーツは重要か」を示してくれる

すばらしいお手本、浅田真央。

 Jack Gallagher 記者

 

人生において、潜在的な能力を発揮できることは、めったにない。そんな例は、社会のいたるところで目にすることです。肉体的、精神的にすばらしい能力に恵まれていても、理由はどうあれ、真の能力を表に出すことは難しいことなんです。

最大限に引き出された才能を目にする機会は本当にまれで、まったくもって、敬意を払われるべきことです。

 浅田真央が、先週、スウェーデンのヨーテボリで、初めて世界選手権で優勝した瞬間は、まさにそういう機会でした。

大会に参加した世界トップランクの女性フィギュアスケーターである真央は、日本でものすごく人気があって、過去3年間に手堅い結果を次々に残してきました。ジュニア世界選手権での優勝、2005年グランプリファイナルの金メダリスト、2006年と2007年の日本選手権での優勝。

 でも、ずっと成功してきたものの、楽勝つづきだったわけではありません。世界選手権のフリーが、まさにそうでした。

 ショートプログラムを、イタリアのカロリーナ・コストナーに僅差で2位につけて終えると、いよいよ、シニア世界選手権で初の優勝タイトルを手にするところまできていました。必殺技であるトリプルアクセルをかまして、公正にクリーンに演技しさえすれば、金メダルに輝けるのです。

 氷上に降り立った真央は、ワイン色の衣装に身を包み、自信に満ちて輝いていました。が!  最初のジャンプの入りで、すべって氷に激しくたたきつけられて転び、リンクの壁まで、スライディングしてしまったのです。

 悪夢のような状況にもかかわらず、真央のすごいところは、すくっと立ち上がり、勝利へと続く6つの3回転ジャンプをやりとげたことでした。

審判を味方につけ、僅差でコストナーを抑えて金メダルを引き寄せたのは、間違いなく彼女の強さでした。

 

 

 

 

そして、世界選手権で優勝したというだけでなく、ラファエル・アルトゥニアンが昨年末に辞めた後、コーチ不在という特殊な環境でそれをやりとげたのです。

真央は間違いなく、完璧主義者です。そういう人は、時に生きにくいものなんです。あなたも完璧主義者なら、またはそういう人を知っているなら、私の言いたいことがわかりますよね。

彼女が先だっての11月、パリのボンパール杯のショートプログラムで連続3回転ジャンプを失敗したとき、30分以上も泣きじゃくったほど、落胆していました。自分に酔って泣いていたわけではなく、膨大な時間を割いて練習してきたことを、ちゃんとできなかったことに対する苛立ちが彼女をそうさせたのです。

フリープログラムでは、勝つために盤石な演技を披露しました。

私は今までのキャリアで、何人もの偉大なアスリートに接してきました。でも、率直に言って、フィギュアスケーターたちは、どの種目よりも過酷な訓練をしていると言えます。

真央は才能に恵まれています。でも、頭角を表したのは、ハードな練習と競技に対する姿勢です。それが、彼女が2005年の全日本選手権で、「一つの大会の同じプログラムの中で、2度のトリプルアクセルを跳んだ史上初の女性」という歴史を創れた理由です。いまだに、同様のことを成し遂げた人はいません。

たくさんの才能あふれるスケーターがいますが、「ワールドチャンピオン」と呼ばれる女性は、毎年ひとりだけです。真央は、1989年の伊藤みどり、1994年の佐藤ゆか、2004年の荒川静香、2007年の安藤美姫に続いて、世界選手権優勝者の仲間入りを果たした5番目の日本人です。

おそらく、国民にとってもっとも人気のあるアスリートである真央は、なぜ、ファンからもそうでない人からも、愛されるのでしょうか?飾り気のない美しさと気立ての良さが感じられる振る舞い、怖いものなしのまぶしい若さ……そういったものが入り混じった魅力なのかもしれません。

17歳の人が何かを達成した姿は、我々がかつて抱いていた夢を思い起こさせます。かなったものもあれば、かなわなかったものもある。でも、確かに抱いていた夢があったということを

真央がすがすがしいのは、優勝に胡坐をかいていないことです。火曜日に東京で開かれた記者会見で、荒川静香のようにオリンピックで金メダルを獲ろうとするなら、もっと練習しなければいけないと答えました。

「バンクーバーオリンピックに向けて、改善しなきゃいけないことはたくさんあります。ルッツを修正したいし、ジャンプももっと高く跳べるようにしたい。スピンの回転を速くして、形もより芸術的にしたいんです」。

荒川静香についてたずねると、真央はにっこり笑って、「荒川さんの後につづいて(金メダルが獲れたら)うれしいな」と答えました。

 

浅田真央には、愛情を注いでサポートしてくれる、すばらしい家族がいます。フィギュアスケートで世界チャンピオンレベルになるには必要なことで、彼女はそれに恵まれています。

真央のようなスケーターを輩出した連盟や大使のいる国、選手のいる競技は幸運です。それを目の当たりにして、そのすごさを語れるのですから。

真央は温かみがあり、知的でたおやか。疑いようのないレディです。ドラッグや暴力や腐敗や、スポーツがネガティブな話で汚されてしまっている時代に生きていると、「スポーツに何の意味があるのか」と疑いたくなるかもしれません。

真央の、正しい方法で何かを成し遂げようとする純真さは、スポーツのあらゆるポジティブな面と、「なぜスポーツが社会の重要な要素であり続けるか」という模範になるものです。とりわけ、感受性の強い若者たちにとって。

浅田真央について考えるといつも、こんな(ダジャレじみた)フレーズが浮かんできます。

マオ(真央)、ワオ(すごい!)。

(完)