写真を整理していたら、2010年にフランスのヴェルサイユ宮殿をたずねたときのものが出てきた。
現地では、写真家を目指していたという素晴らしい日本人ガイドさんとの出会いがあり、ルイ王朝の歴史や宮殿の建築学的特徴を、深い部分まで説明してもらうことができた。
だが、その日は運悪く、そう、本当に運悪く、日本の現代芸術家・村上隆氏の個展が、ヴェルサイユ宮殿を舞台に開かれていたのであった。
最悪だった。
まず、ルイ14世の寝室かどこかに向かおうとしていたとき、昭和の日本人小僧みたいな像が置いてあるのを見て、違和感をおぼえた。
イメージとしては、サザエさん家のカツオみたいな感じだったと思う。
国王の像が飾られた「ヴィーナスの間」には、こんなものが。
「ヘラクレスの間」で天井画の最高峰を見上げようとしても、Tongari-Kun(とんがり君?)とかいうオブジェの先端がチラチラと視界に入る。
「神々と超大国を従わせるヴィーナス」の絵が描かれた「ヴィーナスの間」には、
超大国ならぬ巨大なオブジェがどどーん。
「戦争の間」で巨乳メイド像を見たときは、私を日本人と気づいた西洋人たちに、襲われるのではないかという恐怖を感じた。
「鏡の間」を見るためにヴェルサイユ宮殿を訪れる人も多いと聞く美しい大広間は、観光客なら、ぶち抜きで撮影したいところだが、、、
こんなオブジェがあれば、それも無理。
マリー・アントワネットをはじめ、歴史上の人物たちが眺めたであろう宮殿の庭には、こんな毒々しいものが。
当時は、「なんか不快」という漠然とした感情であったが、
7年近く経った今なら、はっきりとわかる。
私は、私と歴史との対話を邪魔されたと感じたのだ。
王侯貴族たちの生活に思いをはせようとすると、サザエさん家のカツオみたいな像が空想をぶった切ってくる。
ヴェルサイユ条約が結ばれた歴史的な大広間に入るときに、パンツが見えそうな巨乳メイドに会ってしまったら、気が散ってしかたがない。
画廊やアートスペースなら自由にいろいろやっていただきたいが、ベルサイユ宮殿は違うと思う。
「一生に一度、お金を貯めてベルサイユ宮殿を観に行く」という人は、多いはず。
海外に出る機会が少ない国の人ならほとんどがそうであろうし、池田理代子の「ベルサイユのばら」に夢中になった世代であれば、漫画の舞台に足を踏み入れる日を心待ちにしていたかもしれない。
私と一緒に訪れた母も、再びヴェルサイユ宮殿を見ることはないかもしれない。そう思うと、返す返すも残念な思い出である。