こんばんは。「日本フィギュアスケート 金メダルへの挑戦」(城田憲子)を読んで、もやもや感がすごい種子島ぴーです。まさに、大謎小謎な本。
アマゾンでは高評価コメントがほとんどなので、私の感じ方が特殊なのかもしれません。
本書では、フィギュアスケート小国だった日本が黄金期を築くまでの道のりが、城田氏の独白形式で語られています。読み物としては、「プロジェクトX感」があって、読みやすい。プロのライターが、本人にインタビューして書いたものと思われます。
城田氏の名前を見て思い出すのは、例の汚職事件とトリノオリンピックで荒川静香選手が金メダルを取った瞬間、突如隣に躍り出てきたシーン。
そういう意味では、印象がいい人とは言えなかったけれど、ニュートラルな気持ちで読ませていただいた。内容からは、「空前の人気と実力を誇る日本フィギュア界を創ってきたのは私だ」という自負と、それを知ってほしいという強い思いが伝わってくる。確かに、スケート界への尽力はすごい。目標達成のための〝ビジネススキル〟も高い。
しかし、読後感が、すこぶるよろしくない。なぜか?
「行かせた」「やらせた」など、使役動詞がふんだんに登場する本書において、選手とコーチが、「金メダルを日本へ」という目標を達成するための、ゲームの駒のように描かれているからである。
オオナゾ1 コーチを決めるのは、選手ではなく連盟なのか?
荒川静香選手をイチオシしていた彼女は、「荒川にもう一度スポットライトを当てたい」と、アメリカのリチャード・キャラハンコーチに指導を依頼し、荒川選手を向かわせます。
ジャンプを習得させたところで、城田氏がコーチ変更を決意し、難色を示すタラソワコーチをくどいて、荒川選手をタラソワの元へ向かわせます。キャラハンコーチには、城田氏がファックス1枚で事後報告。激怒させます。
タラソワコーチの元で表現力が身に付いたところで、実践指導ができるモロゾフのところへ向かわせます。タラソワが「日本人選手は二度と指導しない」と激怒した話は、もちろん本書では省略。「荒川には、急な指令を出してまどわせた」。指令ですか。
羽生選手に対しても、合宿で目にして「推そうと決めた」。震災後に練習場所がない彼のために海外の選択肢を3つ用意し、羽生選手がカナダを選ぶ。「阿部 奈々美コーチは、羽生選手のコーチ変更をニュースで知ることになった」という話は省略されていますが、心が痛む話です。
もうね、キム・ヨナがオーサーコーチに礼を尽くさなかったどころの話ではないですね。あっちこっちで、「日本人はもうコーチしない」と怒らせて、「私の情熱がそうさせました。でも最後にはコーチたちも理解してくれました。てへっ」みたいなね。
必要ならコーチ変更は当然。事後報告や本人が伝えないのはおかしいと思う。
この本を読むと、宇野昌磨選手の言葉、「どんなに技術や表現をうまく教えられるコーチがいたとしても、僕にとっては美穂子先生が1番です。他のコーチにつくことを提案されても絶対に拒否します」が、別の意味を帯びてくる。
もしも、「昌磨がフランク・キャロルにコーチ変更。樋口コーチはwebニュースで初めて知る」みたいなことになったら、私は昌磨を応援できなくなってしまうだろうな。
オオナゾ2 監督とコーチと選手の関係は?
城田氏は、現在、羽生選手が所属するANAスケート部の監督である。本書によれば、2017年の世界選手権で、ショート5位と出遅れた羽生選手に対して、
あなたがシングルで心が折れてるなら、私はダブルで折れてる。だけどもう、やるしかないでしょ?
と、意味がわかるようでわからない言葉をかけ、
「ここで勝ってこそ、真の世界王者」---私自身、そんな思いで挑んだフリー。
と、主語が誰だかわからなくなっていますが、とにかく、羽生選手はパーフェクトな演技をして世界選手権王者へ。
私が彼に時折かける厳しい言葉も、(中略)応えられる彼の資質があってこそでしょう。
ということで、羽生選手に対してどういう立ち位置なのかがわからない。監督ではありますが、城田氏の言葉に発奮して、羽生選手は優勝できたということなのか? 羽生選手のセリフが出てこないので、なんとも・・・そのときオーサーコーチはどこへ?
オオナゾ3 キングメーカーなのか?
本書によれば、伊藤みどり、荒川静香、羽生結弦にオリンピックメダルを取らせたのは、城田氏であるという。
本田武史、村主章枝には、メダルを「取らせてあげられなかった」。トリノでは、荒川静香の世話に没頭していたので、高橋大輔の件は長光コーチに「まかせっきりにしてしまった」ので、「メダルを取らせてあげられなかった」。荒川静香の世話に没頭していたので、村主章枝にも「銅メダルを取らせてあげられなかった」。
ふーむ。
コナゾ1 コーチの家に選手を住まわせる?
高橋大輔選手を長光コーチのところに下宿させたのも、伊藤みどりを山田コーチのところに下宿させたのも、ご本人とのこと。
へー。
オオナゾ3 浅田真央に金メダルを取らせようとは思わなかったのか?
「この選手を推そう」と思ったら、コーチや曲の選択にも関わるし、ロビー活動じみたこともいとわない。戦略としては、ありでしょう。
高橋大輔推しだったため、織田ちゃんは放置気味。荒川推しだったため、村主選手は放置気味。というのも、アイアイサー。
しかし、金メダルに近かったはずの浅田真央選手とのからみは、本書にはほぼ出てこない。なぜ、他のケースのように、金メダルを取らせるために尽力しなかったのだろう。
ソチのときも、羽生選手のためには尽力したのに、浅田選手に対してはむしろ、「今のままではキム・ヨナに勝てない。白鳥の湖を子どもっぽく演じている」などと新聞に書いたのはなぜだろう? これは、素朴な疑問です。
本書で描かれている城田氏の人物像からすると、強化部コーディネーターという立場で、自国の選手が不利になるような行動をするのは不自然。むしろ、有利になるような記事を書いて、世論を先導するのが自然な流れだと思われます。
うーむ。
全体としては、日本フィギュア界の歴史がわかる一方で、選手とコーチの堅い絆がフィギュアスケートを支えていると思っていた私は、混乱しているのである。
アマゾンのコメントでは絶賛されているので、私には読解力がないようだ。
興味のある方は、ご一読を。