オオナゾコナゾ

種子島ぴー/九州出身、東京在住。夫と二人暮らしです。旅行のこと、フィギュアスケートのこと、香港のことを中心に、右から左へ流せなかった大小の謎やアレコレを、毒も吐きながらつづります。

ネイサン・チェンの誠実さ

トラブルが起きたときの対応で、ますますその人に惚れてしまうことがある。

 

数日前に(一部で)物議をかもしていたネイサン・チェン選手のインタビュー。
それに対するネイサンの真摯で誠実な言動に、清々しさを覚え、ホレボレしてしまいました。

 

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2日くらい前でしたっけ? いやもっと前かな。「Back to School with Maz Jobrani」に、ネイサンが登場しました。Podcastで聞ける番組です。


Maz Jobrani(マズ・ジョブラニ)さんというのは、イラン系移民の人気コメディアンです。

私は、Netflixで彼のステージを見たことがありますが、面白かったですよ。

移民、マイノリティネタのブラックジョークで、移民二世、三世の観客を中心に、ドッカンドッカン受けてました。

親世代の英語のアクセントや民族特有の考え方、テロリストに間違われがちなことを、面白おかしく料理していました。移民から「差別だ、傷ついた」と言われたら、ぐうの音も出ないブラックな笑いです。


そんな彼からネイサンへの質問で、「氷上のスポーツをやろうってときに、なんでホッケーをやらなかったの? ホッケーは男性的(masculine)で、スケートは女性的(feminine)でしょ?」といったものがありました。


この質問自体が、ジョブラニらしいというか、

「フィギュアスケートをやる男性にはゲイが多い」という、

世の中一般的な偏見に基づいて、ネイサンに興味を投げかけているわけです。

 

ネイサン自身、「あなたはゲイですか、ホモですか」という質問を、数多く受けてきたと思われます。

「フィギュアスケートは女の子っぽい」と敬遠する男の子が(米国には)多い現実を踏まえて、「より多くの男の子に、フィギュアスケートをスポーツの選択肢に入れてほしい」と考え行動していることを、ファンは知っています。


だから、「スケートは女性的なスポーツなのに、なぜやろうと思ったのか?」と聞かれたとき、「そう見られがちだけど、違う面もある」ということを、ネイサンは一生懸命伝えようとしたと思います。

映像の彼の表情は、真剣そのものでした。


ただ、そのときに「確かに、ホモセクシャル、LGBTがこのスポーツをdominateしているけど、これまでとは違う形に取り組んでいるスケーター仲間もいる」というような表現をしてしまいます。


このdominateっていう言葉は、どうなんでしょうね。

単純に「支配している」って訳すと、「ホモセクシャルがスケート界を支配している」っていう「なんだかなぁ」な感じになりますが、

「目立っている」とか「優位である」というニュアンスではないかと。

トップスケーターやトップコーチにLGBTが多いことは、私たちだって知っています。

けど、支配はしてないでしょ?


ネイサンの敬愛するコーチやリンクメイトにもLGBTの人はいて、彼らと親しく付き合っていることも、知っています。だって、アダム・リッポンがいるじゃない!!


とはいえ、スケートをしているLGBTの人が、発言を聞いて「傷ついた」と感じるのも、あり得ると思います。

それに便乗して、ネイサンを攻撃する人たちもわいてきました。

 

このような場合の対応としては、

  1. 無視する
  2. とりあえず謝罪する
  3.  誤解だと釈明する

が考えられます。

私だったら、「揚げ足取ってんじゃねーよ!!」って吠えたいかも (笑)

 

しかし、ネイサン・チェンには「4」がありました。

放送を聞いた人の意見に耳を傾け、自分の何が間違っていたのか、未熟だったのか、幾人かの人たちと対話をして、学び成長する。

という選択肢です。

 

 

「I’ve taken the time to read your words, hear from many of you personally, and have some really important conversations. I appreciate your honesty and accountability, and I owe you an apology.」は、

「私は時間をかけて、みなさんからのメッセージ(言葉)を読み、多くの人から個人的に話を聞き、いくつかの本当に重要な対話をしました。みなさんの率直な意見と問題について説明してくださったことに感謝します。みなさんに謝らなければなりません。」

という感じでしょうか。

 

続いて、ビデオメッセージを発信しています。

 

その中で、あの質問が、スポーツが男性的、女性的という先入観を取り払うチャンスだったにも関わらず、思慮が浅かったために、そのチャンスを逃し、正しくすらない発言によってLGBT、女性、マイノリティのみなさんを傷つけた、と謝罪しています。

 

スポーツが男性的、女性的という考え方こそが、時にアスリートを危険にさらし、競技人生を終わらせてしまうこともある、とも。

誤訳が怖いので訳しません。誰かプロの方の全訳を探してくださいまし。

 

LGBT、マイノリティ、多様性…とても難しい問題です。

私は知識が足りないので、「LGBT」という言葉を使うときは、とても緊張します。

オリンピックの開会式を見ても、「多様性」に対する日本社会の解釈の限界を感じました。

 

この問題をきちんと理解するには、かなりの時間をさいて勉強する必要があると思います。

この短期間に、自分の言動の問題の本質を理解しようとつとめたネイサンの誠実さ、真面目さ、何人かの人とディスカッションをしたであろう行動力には、敬服するしかありません。

 

そして、言い訳をせずに、指摘してくれた人に感謝する。学びの機会を与えてくれたことに感謝する。と。

 

これぞ世界王者としてのふるまいですね。


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