圧倒された。
坂本花織フリー『愛の賛歌』。

「大丈夫だろうか?どうかミスが出ませんように」と
緊張で硬直しながら見ていた全身に、
グングンとエネルギーが満ちていく。
特別なコリオを演じているわけでもなく、
ただ滑っているだけに見えるような場面でも、
心の真ん中をわしづかみにされているような、何かがあった。
まるで、リンクの上の何トンもの重たい空気を、
坂本花織一人で動かしているようだった。
それはきっと、彼女がスケートに込めた想い。
プログラムに捧げる愛の力。
驚くべき爆速。
彼女が2度、からだを揺らせば、もうリンクの端に到達している。
固まった個体(私の体)に、パワーが満ちていく不思議な感覚。
「坂本花織が氷の上にいるだけで意味がある。」
そう思った。

演技が終わると、総立ちの観客席。
手を叩き、バナーや日本の国旗を振って叫びながら、みんなちょっと涙ぐんでいた。
女子が女子を見て、こんなに熱狂することがあるだろうか?
(もちろん男性も彼女の演技に驚愕していたが)

ジャンプであれ、ステップであれ、シンプルなストロークであれ、
坂本花織のスケートは、他のスケーターとは別物だった。