オオナゾコナゾ

種子島ぴー/九州出身、東京在住。夫と二人暮らしです。旅行のこと、フィギュアスケートのこと、香港のことを中心に、右から左へ流せなかった大小の謎やアレコレを、毒も吐きながらつづります。

蛇だったのかトカゲだったのか。香港ひと昔話(3) 蛇のスープ

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香港は寒い。特に夏は、レストランも映画館も「長居は無用」とばかりにキンキンに冷やされていて、冷蔵庫の中にいるようだ。

 

「冷房を止めて」と頼むと、温度を上げてくれることはあるが止めてくれることはない。なぜなら、冷房を止めると窒息してしまうから。この感覚は、日本人には理解しがたい。

 

  香港の街中は空気が汚いから、窓を開けて空気を入れ替えることができない。「換気扇を回す」という考え方がないらしく、冷房で空気を循環させるのだ。冷房が空気をきれいにするとは、日本の高性能エアコンでない限り考えにくいが、香港人にとっては、空気を動かすことが重要みたいだ。

 

冷房のおかげですっかり冷え性になり、「寒い、寒い」を連発していた私に、友人たちが口々に勧めてくれたのが、蛇のスープ。

 

いわく、「蛇のスープを飲むと体が温まり、二日後までもポカポカしている」と。

 

昔テレビで見た番組では、蛇問屋みたいなところに行って引き出しから蛇を取り出し、その場で殺して肝をお酒に浸して飲んでいた。ゲテモノ嫌いの私には、とてもムリな領域だ。

 

しかし友人達が言うには「蛇の肉は、鶏肉に色・形共に似ていて、 言われなければ気づかない」とのこと。

 

「どこに行けば飲めるのか?」と聞くと、「そこら中で飲める」という。

 

はたして、旺角をブラブラしていると、ありました「蛇王」の文字が。「蛇王」と名乗るからには、蛇を出すに違いない。

 

近づいてみると、店というより屋台に近い、小汚い店だった。客はおらず、隅の方で食事をしていた店員達が、いぶかしそうに私を見る。

 

テーブルに座り「碗蛇羮、唔該(蛇スープください)」。

 

30秒で出てきたお椀の中には、誰がどう見ても「お前、蛇だろう!!」という物体が、ぎっしりと詰まっていた。蛇を切り開いて縦に8等分したような細い肉片は、蛇皮がそのままついている。

 

蛇のスープ(蛇羮)は、とろみのついたスープで、汁気なんてほとんどなく、蛇、蛇、蛇なのである。しかし、これさえ食べれば暖かく慣れるはず。

 

思い切って口に入れた。 ジャリ、ジャリ、ジャリ。 肉より皮の感触が舌に残る。肉系の味は全くせず、陳皮(みかんの皮を干したもの)とショウガの味が、強烈にきいている。2種類の臭み消しが入っていることで、元はかなり生臭いことが予想された。

 

 

生臭いといえば、店全体もなんか生臭い。

 

と思って顔を上げると、なんと私の横に天井まで届くであろう檻(おり)があり、その中にトカゲがウジャウジャいて、金網越しに薄黄色の腹を見せている。

 

「ぎょえー!!」。後ろを振り返ると、そこにはアルコール漬にされた瓶詰の蛇が。

 

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今すぐにでも店を飛び出したいが、小心者の私は、「食べ残しすぎると店主に怒られるんじゃないか」などと馬鹿なことを考え、半分ぐらいまで食す。


そこへ一人の親父が私の前に腰掛け、「大!」と注文。常連客だろうか、親父の前には「これでもか」と蛇がうじゃうじゃ入ったデカ盛り碗がおかれ、親父は顔色ひとつ変えずに蛇を飲み込んでいく。

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ふと壁を見ると、当時、三級片(香港のポルノ映画)で人気を博していた俳優が、ガッツポーズを取っているポスターが貼ってあった。なんと、蛇のスープは精力剤であったのか(寒)。テーブルの上に小銭を置くと、私はダッシュで店を出た。

 

檻の中のトカゲの腹が目の奥に焼き付き、生暖かい爬虫類の匂いが体にまとわりついている。「一杯12香港ドルという激安の値段からしても、スープの中身は蛇ではなくトカゲだったのではないか」。そう思うと、体が温まるどころか悪寒と吐き気がした。

 

後日、友人達に「蛇王」の話をすると、「蛇のスープって、高級レストランで食べる料理のことだよ。そんな屋台、私だって行かないわ」と言われた。

*ひと昔前の愛すべき香港滞在記をまとめたものです。現在とは変わっている点があることをご了承ください。