なんだろう、このしびれる演技は。
これだけ転倒しているのに、こんなに引きつけられた演技は、初めて見たかもしれない。
私は怖がりなので、選手がジャンプを失敗すると、途端に緊張してしまう。転倒が続くと、いたたまれなくなってテレビを消したり、違う部屋に逃げたりする。
でも、昌磨の場合は、転倒しても「これで終わらない」という確信があるから、「次は何を見せてくれるのか」「どう攻めるのか」が楽しみになって、演技を凝視してしまうのだ。
他の選手と何が違うのだろうかと、この数時間考えていて気がついた。
昌磨は、ジャンプに失敗しても、作品の世界から飛び出してしまうことがない。
4回転ループを失敗しても、4回転フリップを失敗しても、4回転トゥループを失敗しても、「トゥーランドット」の世界の中にとどまって、若き王のままである。
痛々しさを微塵も感じさせないし、ゴージャスな衣装が不釣り合いになることもない。
最後の3回転サルコウと3回転トゥループのコンビネーションは、敵の大軍を前に一歩も引かない戦士のようで、かっこよかった。
クリムキン・イーグルに入る前に、雄叫びを上げていたように見えたけど、幻かな。
「銀メダルおめでとう」でもないし、「逆転してほしかった」とも思わない。
宇野昌磨のアスリート魂に心が震えた、幸せなシーズンの締めくくりである。