うちの家の前にはちょっとした広場があり、わりとひんぱんに救急車がやってくる。
周辺の狭い路地にある家で病人や怪我人が出たときに、そこに車を止めて迎えに行くからだ。
「ピーポーピーポー」という音が近づいてくると、「誰か倒れたのか?」と気になって、窓を開けて外を見たり、テレビのボリュームを落として耳を澄ましたり。
やがて、救急車が到着し、救命士さんたちが急いでストレッチャー(担架)を降ろすと、すばやく病人を運んでくるのがわかる。さすがだ!!
そして、「バタン」と扉がしまって病人を収容した救急車は・・・そのままずーっと停車し続けている。
ときには、「まだいたの? もう、30分ぐらい経ったんじゃない?」と思うくらい、忘れたころにサイレンを鳴らして動き出す。
救急車って、乗れば即座に病院に運んでくれるイメージがありませんか?
でも、違うんです。
先日の深夜、突然、夫が床に倒れた。
「どうしたの?」と聞くと、「く、苦しい」とつぶやき、下腹部を押さえている。
「119」だったか「199」だったか思い出せないくらい動転して救急コールをすると、「さすが日本!!」と誇らしくなるスピードで、救急車が到着した。
総務省の平成28年度統計によれば、119番通報をしてから救急車が現場に到着する時間は、全国平均で8.6分。私の場合は、うちの近所で待機していたんじゃないかと思うくらいすばやく、暗闇の中から救急車が現れた。
携帯や財布や上着や夫の靴を大きなカバンに放り込み、「一刻も速く病院へ!!」と救急車に乗り込んだものの、発車する気配がない。
「早く出発してくれ~」と思っていると、
「基本情報の確認をします」と、救命士さん。症状や持病についての質問を受けつつ、住所、氏名、年齢などをシートに書きこむ。うん、これは必要な作業やね。
猛スピードでシートを埋めて、「早く出発してくれ~」と思っているも、
発車する気配はない。
「どこか、ご希望の病院はありますか?」と、救命士さん。
「へ?」と私。
「これからいくつかの病院をあたってみますが、あそこの病院がいいというご希望があればと思って」。
自動的に最適な病院に運んでくれると思っていたが、そういうことでもないようだ。
しょっちゅう、病院に通っているわけでもないので、希望はと聞かれても、病院名が浮かばない。そういえば、前にお世話になった、感じのいい総合病院があったっけ!
病院名を伝えると、「電話してみます」と救命士さん。電話をかけてくださったが、相手が受話機を取らないようで、延々と呼び出し音が鳴っている。
5分くらいしてようやく電話はつながったものの、受け入れはNG。
「ほかにご希望の病院はありますか?」と救命士さん。
少ない知識の中から別の病院名を伝えるも、やはり電話がつながらず、通じても受け入れNGが続く。
ニュースで何度も耳にした「たらい回し」を、初めて生身で体験した。病院まで行かずに、停車したまま電話で打診しているので、「たらい回し」と言えるかどうかわからないが。
「じゃあ、××病院に連絡してみましょうか」と提案されるが、そこは評判のよくない病院。「いや、××病院は・・・」と言うと、「もうどこでもいいからお願いします」と苦しそうにうめく夫。
もっともな意見なので電話をかけてもらうと、あっさりOK。
結局、20分くらいで救急車は出発したが、永遠に続く時間のように思われた。意識不明とか出血多量とかいうケースでは、とても助かっていないような気がした。
先程の総務省の統計に戻ると、通報を受けてから病院に搬送されるまでの時間は、全国平均で39.4分だそう。うちの場合も、家から車で5分ほどの病院に搬送してもらうまで30分ほどかかっている。
「病院の受け入れ拒否」を問題として取り上げるニュースはよく耳にするが、私が疑問に思ったのは、地域の病院の収容状況などがデータ化されていないということ。
救急車に携帯用デバイスが搭載されていて、患者の状況などを入力すれば、最短受け入れ先リストが、ずらっと出てくる。そういう感じをイメージしていたが、救命士さんが一か所ずつ電話をするという、実に原始的な方法であった。
さらに言えば、収容先の病院の受付に座っていると、ひっきりなしに救急車からの受け入れ打診の電話が入り、受付の宿直の事務員が一人で対応しているのが見えた。その間にも、別の電話が鳴り響いている。
日本の首都東京在住ですが、こんなものでしょうか?
収容可能かどうかをデータ化するシステムがあったとしても、データをインプットするのは人の手なので、そこまでの余裕はないのかもしれない。
せめて救急車に早く出発してもらうために、最低限できること
通報先は119番だと書いて貼っておく。
気が動転すると、マジでわからなくなります。119番だか199番だか。私は海外ドラマの見すぎで、911と混同しました。
住所、氏名、携帯の番号、血液型、病歴などもメモしておく。
救急車が道に迷ったときのために、携帯電話の番号を聞かれました。気が動転してると、電話番号も住所もわからなくなるものです(私だけか?)
道順を説明できるようにしておく。
救急車が建物を発見しやすいように、目印などが伝えられるといい。
家の周辺にどういう病院があるか、チェックしておく。
心筋梗塞の処置ができるのはどことか、あの分野の名医がいるのはどことか、なんとなくでも知っておいたほうがいいと思う。
さて、私の夫のケースで言えば、救急車の中で何十分も待機して運ばれる間に、嘘のように症状が好転し、「どうしました?」とお医者さんに尋ねられるころには、「どうもしていません」と言わざるを得ないような状態になっていた。
奇跡のように有りがたいことではあったが、奇跡が何度も続くとは限らないので、日ごろから備えておく大切さを学んだ出来事であった。